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2014年4月21日 (月)

2364 金属材料

投稿者は元機械屋ですから、金属には強いと思っていました。しかし、岐阜から秋田に戻る途中、ビッグサイトで開催されていた展示会に立ち寄り、最新の金属材料や金属加工の進歩に触れて、少なからずショックを受けました。もちろん、例えば金属の中にファイバーを入れたFRMやセラミック粉などを混ぜ込んだ複合金属や粉末冶金に諸手をあげて賛成している訳ではありません。そのような「エセ金属」は、いくら性能が高くてもリサイクルには全く適さないからです。リサイクル出来ずに使い捨てられる場合には、当然の事ながら「埋め立てゴミ」として処理するしかないのです。

そうではなくて、金属自体の結晶粒の微細化や加工法の工夫で、塑性加工を通じて成形を行い、加工と同時に強度や靱性を上げる様なアプローチが好ましいでしょう。タタラ製鉄で砂鉄から作られた炭素鋼(玉鋼)が、鍛練を繰り返す事によって、切れ味と靱性の両立が出来る日本刀になる様に、マグネやアルミやその他のありふれた金属が、見違えるような性能を実現できる可能性を秘めているのです。その意味で、金属材料や冶金学はまだまだ発展途上の分野だと改めて思いました。

中でも注目した金属は、塑性加工性が悪いと言われてきたチタンです。チタンも、最近はSPF(超塑性)を発現させる温度もかなり低下した様ですから、利用範囲も航空宇宙などから民生品へも拡大が可能でしょう。また、例えば100年以上の耐久性があるビルのサイディングや屋根材として用いれば、初期の投資額は大きくなったとしても、子孫に送る財産としての価値は十分高いものに維持出来るでしょう。最近は寺社の屋根材としてチタン材が用いられるケースも増えている様です。資源量が多く、耐熱性が高く、腐食にも極めて強いこの金属は、今後ますます利用範囲の拡大が期待できそうです。

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コメント

 それにしても日立金属製の高性能冷間工具鋼SLD-MAGIC(S-MAGIC)の自己潤滑性の評価が高い。塑性加工金型のカジリを防ぐメカニズムが最近わかったようで、摩擦面に自動的にナノベアリング状の結晶が生成されるとのこと。耐カジリ性の指標であるPV値も通常の鉄鋼材料の6倍と世界最高水準と報告されている。
 これはどういうことかというと、例えば自動車のエンジンや動力伝達系部品のしゅう動面積を1/6にすることを意味し、大幅な軽量化による低燃費化が期待できることを意味している。トライボロジー技術にはまだまだ発展する力学的な未知が多いように思われる。

投稿: 超硬冶金鍛造屋 | 2014年5月23日 (金) 23時49分

 オイルコーティングの新理論、CCSCモデルは反響がでかいですね。ネット上の情報ではいかにもダイヤモンドに潤滑性があるように言及するものが多いがこの理論はそれをキッパリと否定しているところに好感が寄せられているのかもしれません。エンジニアの常識としてダイヤモンドは研磨剤であり潤滑剤ではないというのが一般的認識ですから。
 あと国産エンジンのダウンサイジング化が叫ばれているのも盛り上がりの一要因かもしれません。

投稿: トライボケミカル | 2014年11月23日 (日) 15時16分

PV値が900MPa・m/minとは結構でかい。

投稿: 高面圧設計家 | 2015年6月14日 (日) 04時22分

 現在の機械構造材料の最大のネックは摺動面。
いくら機械的特性(材料強度・硬さ)が高くても、材料というものは摩擦に弱い。
そのため潤滑油が存在する。しかしながら、それでも弱いので
コーティングをする。
しかし、日立金属が開発した自己潤滑性冷間ダイス鋼SLD-MAGICは
コーティングレスで摩擦に強いことが特徴。そのメカニズムは
潤滑油と特殊鋼が相互作用を起こし、グラファイト層間化合物
(GIC)という高性能な潤滑物質を作るためであることが、日立金属技報
2017で公表された(炭素結晶の競合モデル;CCSCモデル)。
 これにより機械設計は小型化され、摩擦損失と軽量化の同時
解決が見込まれ、自動車の燃費向上に大いに寄与することが期待
されている。

投稿: トライボシステム展望 | 2017年3月16日 (木) 01時36分

 日立金属さんのオイルを含めた営業戦略ソリューションビジネスは面白そうですね。

投稿: ロールパン職人 | 2017年4月14日 (金) 07時10分

 グローバルな展開も期待できそうですね。

投稿: 某外資系 | 2017年4月23日 (日) 11時52分

 このような技術は経営工学的には「破壊的イノベーション」の一種と考えられ、その発展の制御は難しい。しかしもうどうにも止まらないだろう。

投稿: ダイヤモンド理論 | 2017年5月 9日 (火) 04時32分

名古屋最強!

投稿: 佐久間 | 2018年1月 6日 (土) 10時25分

 SLD-MAGICの開発者、久保田邦親博士はダイセルの首席技師として移籍したようです。高性能トライボシステム開発を追求してのことだと思います。

投稿: 姫路科学 | 2018年2月18日 (日) 12時56分

 日立金属の役員の正路英一郎の見方がかなり偏狭だったのは残念だ。機械工学への新たな画期は別会社に移ったのか。

投稿: 機械系企業 | 2018年7月14日 (土) 22時46分

 最近、CCSCモデルというものを知りました。これは境界潤滑状態(機械のオイルを介した摩擦状態)で面圧が数千MPaの強度のある鉄鋼が数十MPaしか耐えられないのはナノレベルではグラファイト片がダイヤモンドになることを報告したもので
C.C.yang and S.Li: J. Phys. Chem. C 112, (2008), p.1423-1426.
などを根拠にラマン分光測定結果などを理由にしているものだ。もしこれが本当だったら、ナノレベルのダイヤモンド生成の抑制方法を緻密に制御すれば、高面圧に耐えられる機械ができる可能性を示唆していることを意味している。

投稿: ラマン分光ファン | 2019年11月30日 (土) 20時22分

 今までトライボロジーやケミカル関係者は熱力学および状態図を掲げているのが、原子団、分子団をイメージさせる研究内容だ。

投稿: 老トライボロジスト | 2019年12月 8日 (日) 17時25分

 CCSCモデルで引用されているC.C.Yangの熱力学論文を読むと、冷間始動(コールドスタート)時におこる異常摩耗に役に立つように思いました。

投稿: エンジンメタル関係 | 2020年2月 2日 (日) 20時38分

CCSCモデルは材料工学の目標変更を要請している。そのようなちっぽけな話ではない。今まさに特殊鋼や機械工学の歴史が旋回しているのだ。それは日本海軍の東郷元帥が行ったT字戦法のようで旋回中は容易に静止目標となりやすい危険をはらんでいるからだ。しかしもその時代はすぎさりサステナブルな未来に共感するものにとって代わることによるパラダイムシフトが起こるであろう。

投稿: 鹿児島出身 | 2021年2月 9日 (火) 20時30分

トランプエレメントあたりで起こりそう。

投稿: サステナブルマテリアル | 2022年1月12日 (水) 22時04分

すでに日本海海戦の火ぶたは全国で開かれているようです。

投稿: プラスチックエンジニア | 2022年2月 2日 (水) 03時37分

残念でした。答えは、トヨタ自動車の水素エンジン車、GRヤリス関係でした。

投稿: グリーンパイロット | 2023年1月11日 (水) 05時34分

なんかトライボロジーとしてもナノレベルのダイヤモンドの熱力学的安定性に言及したり、反応経路を状態図で図示したりと先進的な取り組みですね。

投稿: 環境調和プロセス | 2023年4月23日 (日) 17時32分

日立金属ってプロテリアルに名前が変わったんですね。

投稿: バイオメカニクス | 2023年5月11日 (木) 15時57分

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