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2015年5月 6日 (水)

2691 複眼視

現代社会は、個人の能力をはるかに超えて複雑化してしまった様に見えます。例えば、原発一つを取ってみても、そのシステムの全体を把握するのは、仮に一人のスーパーエンジニアが居たとしてもその手には余る事でしょう。何故なら、そのシステムには、単に核分裂を扱う電子物理学や関連工学のみならず、材料の劣化を扱う分野、あるいは応力サイクルや熱サイクルに伴う金属疲労、更には電気化学的、あるいはキャビテーション・エロージョンなどによる齲蝕現象、あるいはソフトウエア的なエラー、ヒューマンエラーなどのエラー学などなど、正常な稼働を妨げる種々の科学的・工学的な劣化(トラブル)現象を熟知している必要があるからです。

単に、劣化現象を広く、浅く理解しているだけでは全く不十分です。実のところ、それらの劣化現象が引き起こすであろう、実際に破損したモノや事故現場も目撃している事が望ましいのです。とは言いながら、例えば、今回の福一事故の様な原発事故が再々起こっては、ならないでしょうし、二度と起こしてもならないでしょう。スリーマイルやチェルノブイリでも放射能漏れ事故やメルトダウン事故を起こしてはいますが、炉の構造や原因を眺めてみると、それぞれ大きく異なっている事が分かります。

結局、システムなり生じた事象を複眼視しておいて、全体の概観の中で異常を察知した上で、その原因特定のために専門分野の知識を動員すると言う順番で、事を進めなければならないのです。直接的な異常を示したサブシステムや、個別の事象だけに注目してしまうと、真の原因を見逃してしまう可能性が大となってしまうでしょう。福一の場合は、確かに電源喪失が事故の直接のトリガーを引いた訳ですが、その根底には、津波やそれに伴って起こる浸水事故の想定が全くなされておらず、したがってモーターや電気回路が建屋の地下に納められていた事、また電源が喪失した場合でも高い場所に設置したデーゼル発電機によるバックアップ、更に電源が全く失われた場合でも、炉内に残っている蒸気を使って駆動するタービンポンプなどを備えていれば、メルトダウン(メルトスルー)などという、技術屋としては恥ずべき大事故は回避された筈なのです。このシステムを設計した技術者集団には、明らかに複眼視能力が欠けていたと断ずるしかないでしょう。あと知恵でも良いので、国や電力会社が再稼働を急いでいるいくつかの原発に対しては、可能な限り立場の異なる人たちが、その安全性を複眼的に再点検する必要があります。

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